文法特異的な発達障碍はある(に決まっている)。

Lexical word formation in children with grammatical SLI: a grammar-specific versus an input-processing deficit?
Heather K.J. van der Lely, Valerie Christian
Cognition (2000) 75 33-63

要約
SLI (specific language impairment:特異的言語発達障碍) に関しては入力−処理 (input-processing) の障碍とする説と文法に特異的な障碍とする説との論争が続いている。先行研究は屈折形態素の脱落や言語課題の低成績に焦点を当ててきたが、これらの現象はどちらの理論でも説明可能なものである。これらの理論を区別するために、著者らはgrammatical (G)-SLIと呼ばれるSLIのサブグループにおいて複合語の形成について研究を行った。
屈折の知覚および生成には余分な処理リソースが必要だとする入力−処理障碍説は、G-SLI児においては複合語内部の規則的複数形−sが脱落する (e.g. rat-eater) と予測する。それに対し、G−SLIは規則的屈折形態素の障碍であると考える文法特異的障碍説は、G-SLI児が複合語内部で規則的複数形−sを生成する (e.g. *rats-eater) と予測する。
著者らは16人のG-SLI児を36人の健常児と比較した。
両グループは複合語内部において不規則的複数形 (mice-eater) を産出した。また、健常児および10代の被験者たちは複合語内部における規則的複数形 (*rats-eater) をほとんど産出しなかったのに対し、G-SLI児では頻繁に産出が見られた。これは文法特異的障碍説を裏付けるものである。また、この結果は言語システムの中で、ある特定の文法能力が特異的に障碍されていることを示す。
 
感想
まず言語学畑の方の論文は記述が冗長だと感じた。疲れた。
さて本論。 
運動の苦手な子供をSMI (specific motor impairment) と名付ける。その中でも特に、自転車に乗れない子供たちをbicyclical (B)-SMI というサブグループにカテゴライズする。彼らはバスケットボールをプレイすることはできるが、自転車技能においては著しい障碍を見せた。これは自転車特異的仮説を裏付けるものであり、運動システムの中で自転車能力のみが特異的に障碍されていることを示す。というパロディを考えてしまった。
勿論今回の議論はこんなに単純ではない (そもそも自転車能力で運動能力一般を説明しようとする者がいるわけがない) が、慎重な態度が必要だと思った (文法の障碍では説明できないSLIもあるのだから)。
この研究はG-SLIというサブグループを選び出してきている以上、トートロジーになっている可能性があるのではないか。SLIの一般的原因に関する研究 (input-processing vs. grammar-speciic) ではなく、G-SLIという集団に依るDouble Routeモデル*1の実証という切り口で見れば意味があるのでしょう。
 
「文法」というカテゴリーに関しては日々考えているのでまた後日触れます。

*1:規則的morphology(の一部)と不規則的morphologyが異なる様式で処理されていると考えるモデル