生体内の神経電気活動をMRIで見る



いきなり、久々の、硬めのエントリ。論文の内容はなかなかすごい。

Finding neuroelectric activity under magnetic-field oscillations (NAMO) with magnetic resonance imaging in vivo
Truong TK, Song AW.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Aug 7; [Epub ahead of print]



実は、脳内の神経発火を見ているのはではなく、腕の正中神経 median nerve なので、カテゴリは[腕]とすべきか(二度と使われないだろうけど)。
従来の fMRI で見ていたのは、神経の発火そのものではなく BOLD シグナルという二次的な信号。それに対して今回の新技術は神経の発火活動そのもの(ほとんど)を高い時間解像度、空間解像度で見ようとしている。どうやって?
 
ここで利用されるのがローレンツ力。
  $\mathbf{F} = \mathbf{q}(\mathbf{E}+\mathbf{v}\times\mathbf{B})$*1
電磁場中で運動する荷電粒子が力を受けるというやつ。
 
原理としては、
磁場から力を受けることになる荷電粒子が柔らかい媒質に囲まれている場合、結果として媒質も移動することになる。そして磁場に傾斜がある場合、スピンの位相同期が失われる。その度合いは与えた磁場の強度と時間に比例する。この非同期化の効果は、横緩和と類似した、voxel 内の信号の指数関数的な減衰をもたらす。
といったところ。
つまり、神経発火に伴う荷電粒子の流れがローレンツ力を受けることによって生じる近傍組織の信号変化を画像化するということだろう。
具体的には腕に電気刺激を与えることで生じる神経発火が正中神経を伝播していく様子を可視化している。
 
先行研究ではファントム(擬似生体)で成功していたのだが、生体に応用するにあたって工夫したのは、磁場の傾斜を神経への刺激と同期してオシレーションさせること。神経発火が常に磁場の Negative Lobe と同期することによって、神経発火による信号が増幅される一方、発火と無関係な荷電粒子への影響は抑えられ、測定の感度が増すことになる。
 
エコータイムは長いほうがローレンツ効果を検知するのに都合がよいのだけれど、T2* 緩和で全体的にシグナルが下がるのも避けたいので、結局は 35.5 ms で折り合いをつけたのだそう。MRI は GE 社の4テスラ whole-body。被験者は二人。オシレーションおよび刺激の周期は、腕の先端から肩までの信号伝達時間が約 4 ms なので、それに合わせて10 ms(磁場は周期的に反転するので 磁場が Negative Lobe の間(5 ms)に発火が伝播する)。rest と stimulation のブロック・デザイン。
 
結果としては図2に代表的な被験者(というか n = 2 だから良いほう)のアクティベーション・マップが。脳以外のマップって初めて見た。見事に正中神経に沿って直線的な形状に活動が見られます。一直線ではなく、途切れ途切れなのが気になるのだけれど、これは周囲の組織の違いに拠るのだろうか。
図1にある4つの条件で比較していて、その結果の signal change の比較が図3。1ブロックにつき刺激2回のものより3回のもののほうが、より、rest と stimulation のコントラストがはっきりするのは、まあ、当然か。それから二つのコントロールをやっていて、磁場のオシレーションだけ与えるものと刺激だけ与えるもの。この二つでは rest と stimulation のコントラストは生じていない。これは、単に神経におけるローレンツ効果を測定しているのではなく、磁場と同期した神経発火に伴うローレンツ効果を計測していることを示している。なぜなら媒質の移動自体はコントロール条件でも生じているからである。重要なのは磁場のオシレーションと同期したローレンツ効果である。また電気刺激によって生じる磁場だけ、もしくは磁場のオシレーションだけでは、コントラストを説明できないことを意味する。
それから刺激2回の条件も3回の条件も共に刺激および磁場のオシレーションの周期は10 ms だから、2つの条件間のコントラストの有意な差は、この測定法がミリセカンド単位の時間差にセンシティヴであることを示している。 
同じ被験者で7回実験やったところ再現性もあったというのが図3のE。
 
以下ディスカッションから。
従来のイメージジングと異なり、神経の信号伝達の様子が計測できるので様々な神経疾患を特徴付けることができるかもしれない。また、中枢神経の白質の機能的結合も見られるかもしれない。
脳においては刺激から発火までの遅れを決定することが難しいため、磁場と発火の同期に困難があるが、ERP の結果を用いれば、刺激にタイムロックした発火を捉えることは可能だろう。
 
う〜ん、中枢神経系への応用までにはまだまだ時間がかかりそうだけれど、これはなかなかすごいんじゃないか。同期の周期を調整することで、ある時間枠にどのくらい神経発火が伝播していくかが画像化できるかもってことだよね。ミリセカンド単位で。イメージング業界も行き詰まりかけているような気もするので、こういった新技術には本当に期待してしまう(無責任)。
 
どうでもいいけど、ネーミングは NAMO かあ。namoMRI とか呼ぶようになるのかなあ。なもなも。

*1:ただ数式を書いてみたかっただけ。初\TeXわーい。