ムーランルージュで息も絶え絶え

現実逃避してはてなスターをいじる。画像はスウィングしているときの脳活動を fMRI で撮影したもの。みんなもスウィングで脳を活性化、玉虫色に染め上げてくれよな!*1
いつもどおり聴覚計算論のセミナーに行くと何故か今日は学生が僕ひとり。講師はフランス人の気のいい兄ちゃん。夜勤明けにフランス鈍りの英語で一時間半、マンツーマンは拷問。隠れマルコフモデル (HMM: Hidden Markov Model) の数式の説明が延々続いたときは半分意識を失いかけた。ノートを取るふりして必死で妄想を書きつける。"「システムはパラメータ未知のマルコフ過程*2である」という仮定の元で、観測可能な情報からその未知のパラメータを推定するってのは、人間が会話しているときに相手の内部状態を掴もうとして実際取っている方策だろう。多分、感情の履歴はほとんどマルコフモデルで表せるのではないか"。翻訳してやればそんな内容のことばがよぼよぼと紙の上をのた打ち回っている。半分夢でも見ていたのだろう。彼はたった一人のストゥーデントである僕のレスポンスも確かめずに聴覚工学の計算論について熱く語っていたわけだが、それも、彼の音楽への愛情あってのことなので*3、授業の後半は僕も積極的に質問して大いに楽しんだ。CDJ に CD 入れると BPM が自動的に計算されて出てくるのだが、それはどういうメカニズムなのか。波形のパワーから単純に計算するとシンコペーションなどでうまくいかない。フーリエ変換して低周波数域における様々な周期でのパワーの分布を比較してマルチエージェントっぽく決めるらしい。とか、隠れマルコフモデルでも結局ボーカルとインストゥルメントの分離はうまくいかなくって、ローカルなものだけ見る HMM ではやっぱりまずい、と。じゃあ Lerdahl & Jackendoff の生成文法アプローチ(参照:生成音楽理論)で攻めたらどうか、と提案すると、それは心理学的に在り得ないから*4やめとくよ、とか。音楽を大切に思う気持ちをふたりとも持っているから、方法論や理論の違いはスパイスとなって音楽から更なる旨みを引き出すのだ。文学だと何故だかこういう交流はうまく行きにくい気がする。
結局、彼のプログラムによって分析・生成された Cat Stevens の再構成物は、ギターとボーカルがそれぞれ別々にクラスターを作って交互に反復される、大層無様なノイズミュージックだったのだけれど、漫画における試験管の爆発シーンのような、科学の愛すべき失敗そのものとしてやけに陽気に優しくふたりだけの講義室に響き渡ったのだった。

*1:脳は活性化すれば良いものではありませんし、活性化しても色づきません。冗談は冗談と言っておかないと週刊誌に叩かれることになる。

*2:YES/NO 選択式チャートの複雑なものと思ってください。YES/NO じゃなくて確率的に動きますです。戻ったりもします。うわ、適当。

*3:彼は音楽の主観的認知メカニズムをを工学的に実現したいらしい。

*4:ここは微妙