Sigur Ros 新木場 STUDIO COAST 20081025

秋の大物ライブ三連戦、radiohead につづく二戦目は Sigur Ros
今回も我がバンドのボーカル kms の誘いで参戦。チケットがライブ当日になっても kms の手元に届かず、問い合わせたところ、住所の宛名に間違いがあって、羽田の荷物集積所に留まっていたことが判明。羽田に急ぐ彼。一方、僕は先に新木場駅に着いて彼を待っていたのだけれど、この駅前の風景が、良かった。労働後のおっちゃんたちや暇をもてあました感じの若者たちが、それぞれ思い思いにたむろして、酒を飲んだり、煙草を吸ったりしていて、ちょっとすさんだ感じが、何だか、懐かしくて、心が安らいだ。開演予定時間は過ぎているし、はやく kms に来てもらいたいものの、まあ、俺が焦ってもしょうがないか、と僕もビールと煙草で彼らに同化する。急きはしてもひとり。などとひとりごちる。結局、kms が羽田からタクシーを飛ばしてくれたおかげで何とか 20 分遅れほどで入場できた。
 

"Glósóli"
 
扉を開けてすぐに僕は彼らの世界にどっぷり引きずり込まれた。一音、一音が、ステージのバックの映像と渾然となって呼吸をして、跳ね回って、じゃれあって、身体の穴という穴をこじ開けて心臓に飛び込んでくる。3年前の FUJI ROCK での山影と星屑を借景した、眩暈を催すようなステージを目の当たりにして以来、彼らの虜になった僕なのだけれど、自慢じゃないが、彼らの曲名はほとんどまともに知らない。ホープランド語読めない、ということもあるのだけれど、彼らの楽曲自体が言語化を拒むようなところがあって、敢えて、読んで、訳して、意味を知りたい、とは思わないのだ。あの豊穣な音のざわめき、叢がり、を何かひとつの言葉で名指すのはほとんど冒涜のような気さえする。言語の限界は世界の限界である、と唱えたひともいたけれど、むしろ、原世界にあるものがあまりに肥沃で蠱惑的だからこそ、僕たちは自分たちを抑制するために言葉で世界を狭めているのではないかとすら思えてくる。高鳴るバスドラムに振るえながら、普段の生活では触れることも目にすることも出来ない、世界を構成する粒子がきらきらと踊っているのを肉眼で知覚して、訳もわからず涙が出てくるので、頭がおかしくなったのかと思った。いや、おかしくなってたんだろうな。
 

"Inní mér syngur vitleysingur"
 
新アルバム『Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust』 (個人的に「はだかんぼ」と呼んでいる) はこれまでになく楽器の粒が立ったアルバムで、ライブで聴くと本当にドラムのオッリが名プレーヤーであることがわかる。ヨンシーは声の調子が悪かったみたいだけれど、何だか、かえって、世界線のぎりぎりの淵で歌っているような、壊れる寸前のファルセットが、美しく感じた。苗場ではあまり良く見えなかったメンバーのファッションもひとりひとり個性的で、心が踊る。ベースのゲオルグ髭男爵みたい。オッリはインチキな宝石を鏤めた王冠を被っている。
新アルバムと過去のアルバムの曲を混ぜて聴くことで感じた、変わることのない彼らの楽曲の本質は、まず表現すべき世界が先行し、その受肉化の過程にバンドが奉仕している、ということだった。開演に遅れたので新アルバムの一曲目 (ごbるgぼぼ、といった感じで発音不可能な音で 読んで/呼んで いる) は既に終わっていたと思っていたのだけれど、驚いたことに本編最後に演奏されて、今までのシガー・ロスではありえない盛り上がりを見せた。
 

"Gobbledigook" (必見PV!)
 
観客全員の打ち鳴らす拍子の狂ったハンドクラップ、頭のネジの外れたようなコーラス、ステージカーテンも吹き飛ばす勢いで噴出する赤や黄色や青の紙ふぶき、尽きることの無い多幸感と躍動感が床や壁や天井を突き破って、服を全部脱ぎ捨てて素っ裸で駆け出して、晩秋の東京湾にダイブする!ところだった。
熱烈な拍手でアンコールに突入するもサードアルバムからの一曲でじんわり終了。二時間に満たない短めのライブだったけれど、もう、大満足。
 
その後、渋谷に直行し、長崎ちゃんぽんと餃子を掻きこんで Sigur Rós の雰囲気をぶち壊し、メカちゃんも加えてバンド練。Sigur Rós の悪い影響を受けた混沌とした演奏を繰り広げ顰蹙を買ったのだった。
さて、秋の大物ライブ三連戦は最終戦を残すのみとなった。最後はほんとに待ちに待ったバンド。楽しみ!
 
おすすめライブレポ
鼻水垂らして呆然としていた僕に代わって詳しいステージングについてのレポートはこちらをどうぞ。セットリストもあります。
Sigur Ros live in Tokyo: ツ゛三才ソ
おすすめライブ映像
Bjork と一緒にやっている "Gobbledigook"。音はちょっとしょぼいけど、楽しそうでいいなあ。