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2.2 言語学的記述を心的にどう解釈するか?
そのような代替案とはどのようなものか。認知構造が神経的基盤の上に成り立つことは誰も否定しないだろう。そして神経がどのよう言語の理解と産出を成し遂げるかを理解することの重要性も誰も否定しないだろう(と私は思う)。それでは図の1.1のような結果は神経実装に関して私たちに何を伝えてくれるだろうか?
まず、このような表記が実際にどのようなことを主張しているかを理解することが重要である。NP記号に直接相当するものが話者の頭の中にないことは明らかである。むしろ重要なのは、それがどうラベル付けされるかではなく、他の統語範疇とどのように異なっているかである。同様に、統語構造がツリー構造によってモデル化されるということは、話者が文字通りに樹形図を頭の中に形成することを意味しない。実際、私たちは(1a)のようなツリー構造を「括弧表記でラベル付けされた」(1b)のような図で置き換えることがある。ある人々は(1c)のような「箱型」表記を用いるし、他にも様々な表記がある。これらは全て以下の様な理論的主張を表記するためのものなのだ。
(い)語は統語範疇に属す
(ろ)語は線形に並ぶ
(は)語の階層的により大きな構成素にグループ化され、そのグループもまた統語範疇に属す
こういった側面は神経による実装に何らかの形で反映されなければならない。これらの側面以外においては、どの表記を採るかは、単に便利かどうかよるものなのだ。
このような心の理解をもってすれば、脳の関連部位の全てのニューロンの状態の集合を、多次元の「状態空間」 state-space を規定するものとして考えることが出来る。誰かが "The little star's beside a big star." という文を聞いたり言ったりしているとき、脳は状態空間のある地点にいると考えられる。そして別の言語表現に対しては、またそれぞれ別の地点にいることになる。図1.1の表記は状態空間における重要な次元に関する仮説を符号化したものであり、表記中のそれぞれの要素は諸次元におけるある一つの(もしくは複数の)位置を符号化したものなのだ。