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人間のあらゆる行動や思考は、経験されている現在の環境、人生の歴史全て、そしてもちろん当初の遺伝的資質の相互作用から生じる、現在の脳と身体の状態から引き起こされるのだ、ということを科学者たちは証明してきた。

これらの事実から我々は本当は自由意志を持っていないのだ、と結論付けたくなるものもあるだろう。しかしそれは誤りである。行動に対して責任を与え、努力と後悔を意味あるものにしてくれる重要な意味での自由意志とは、行動のための理由をどのように脳が処理するかによって決定されるのだ。哲学者たちは、脳が辿り着いた決定があなたの決定であるならば、つまり、それが洗脳や他者の操作によるものでなく、あなた自身の論理的思考と経験に基づいたものであるならば、十分に自由意志と道徳的責任を有していると言えるということを示してきた。あなたの脳が正常ならば、脳は選択のオプションと価値とを何度も熟考し再考することを可能にしてくれるし、どのような人間にあなたがなりたいかを内省することも可能にしてくれる。そして、これらの内省が決定に至り、決定が行動へと至るのであれば、あなたはあなたの行為の責任者であり、それゆえ、非常に重要な意味であなたは自由意志を有するのである。(略)

 
この文章、もしくはより効果的な文章は統制グループと比較して不正を減少させるだろうか?その探求は非常に興味深い。Vohs と Schooler 、そしてその他の何人かの心理学者は自由意志に関する信念が行動に及ぼす影響という新しく経験的な調査 (これは僕が10年以上にわたって力説してきたテーマなのだが (Dennet, 1984, 2003a) ) に乗り出そうとしている。自由意志に関する科学的探求は環境、特に信念環境 belief environment (Denntet, forthcoming)に対して大きな影響を与えるだろうことは明らかだ。特に、仮にこの実験結果の通俗化が、自由意志の重要性 (これがVohs と Schooler の発見した効果に対する僕の解釈なのだが) に関する広い誤解を生むことになるとすれば、社会への重大な弊害をもたらすだろう。この結果は何十年もの間自由意志に関する考えを歪めてきた伝統主義者の正当性を立証するものでは全くない。むしろ、時には巧妙なものでさえある虚偽の主張を行う彼らの力強い動機を明らかにするものなのだ。
 
人々は何を恐れているのだろう?おそらく彼らは状況が複雑になることを恐れているのだろう。これはわからないでもない。一旦絶対主義がうち捨てられれば、歩いて欲しくはないあらゆる種類の道が開けてしまうのだ!いくつかの (明らかな) 可能性を考えてみよう。