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遺伝子と文化の進化のコンビネーションがホモサピエンスを作り出した。そしてそのような特徴をはっきりと持っているのは、地球上では、いまのところ、ホモサピエンスだけなのだ。自分自身の選択に根拠があるのか、自分自身が好んでいると気付いたものを好むべきなのか、などなどを無制限に内省できるような観点を、僕たちは文化のおかげで手に入れた。しばしば、好き嫌いを変えることが難しかったり不可能だったりすることに気付くことはあるけれど、そんな時でさえ、少なくともその事実を知ることはできるし、何とかうまくやる方法を考えることもできる。
 
僕たち自身が持っている選択の根拠や選択の習慣を、情報に基づいて発展的に取り扱う、この制約のない能力こそが、どんなに賢く、自発的な動物でも持つことの出来ない様々な形の自由意志を僕たちに与えてくれるのだ。
 
これで充分だ、この自然主義的な様々な自由意志は、僕たち自身の道徳的責任に対する信念や、ニヒリズムの否定や といった本当に重要なことを損なったりしないし、説明もしてくれるのだから、これは本当の自由意志と呼ぶのに値する、と考える人もいるだろう。けれども、こういった議論における「本当の魔法」の伝統はあまりに強力なので、どちらの陣営に属そうと多くの思想家は、故意であるかどうかに関わらず泥水をかき混ぜ続ける。今回、僕は、伝統的な (神秘的な) 自由意志の存在を主張し続ける人々の八つ当たりは無視しようと思う。なぜなら僕や他の人々はこれまでも他の場所で長々とそういった人々の相手をしてきたからだ。その代わりに僕のひいきの思想家たちが、こういった (伝統的な自由意志を擁護する人々の) 絶望的な態度に対してとった過剰反応について集中的に述べようと思う。
 


ウェグナー

  
2002 年に僕の友人の心理学者ダニエル・ウェグナー Daniel Wegner は『The Illusion of Conscious Will (Bradford Books) (意識的な意志という錯覚)』という挑発的なタイトルを持った本を出版した。僕はこの本を草稿の段階から読んでおり、気に入っていた。けれどもそのタイトルには反対した。それは「本当の魔法」を欲しがる連中の思う壺になるからだ。