神様を信じる強さを僕に。

       御開帳綺譚 (文春文庫)
       玄侑宗久御開帳綺譚 (文春文庫)
21年ぶりの御開帳を前に、薬師如来像の出自を巡る騒動が起こる。中世から受け継がれてきたはずの薬師如来像は、本物なのか?もし、偽者ならば本物は今どこに?
このミステリーとパラレルに描かれるのが、主人公の僧侶の夢のあわいに訪れる幻惑的な女性との交わり、そして気難しげな老人の長年の二重生活。こういったテーマでは、人の記憶の不確かさ、はかなさに終始する凡俗なストーリーとなるところであるが、クライマックスの描写は流石に宗教者。説得力と神々しさをもって奇跡を描き切る筆力に圧倒される。神性というものが天上に浮遊するものではなく、確かに我々の五感を通して、主観的に把握されるものであること(すなわち真の信仰とはルサンチマンである以上に、むしろ強さを要求されるものであること)を確信させてくれる。「神は死んだ」からこそ、我々は神性というものの帰属についてシリアスに考えなければいけないと思うのだ。
主人公の僧侶が広告屋上がりで、大衆に訴えかける御開帳儀式の案を練っているのも面白い。南米の楽器や演劇的要素を取り入れた御開帳儀式、是非、見てみたいものだ。そしてこのように、神性というものをある意味ポップに、だが、真摯に扱う姿勢というのは、旧態依然とした宗教界に欠けたものであるのかもしれない。