ボルツマン定数を上げてくれ。

僕は夏は暑がりで、冬は寒がりである。ということは夏から冬に切り替わるどこかで、一般の人々の平均的な寒暖知覚曲線を横断して、暑がりから寒がりのほうへと転移する瞬間があるはずで、それが今となってみれば今週だったのだなあと思った。
夏は夏で暑くて文句ばかり言っているのだけれど、けれども、やはり夏に生まれた性ゆえか、世界に充満した光や水や熱が活発に体を刺激して、それに応じて僕の体も光や水や熱を放って!そういった奔流の中に身を置くことに限りない喜びを覚える。東南アジアでは太陽とスコールと香辛料とによって流れが更にアンプリファイされて濁流となり、日本では掴めなかった命の在り様を、ナンプラーの香りと汗にまみれながら、ほんの少し、理解した。何もかも、喜びも悲しみも、僕の体をどんどん通り過ぎていけばいいと思った。
そして、冬だ。分子の熱運動が低下してきている。その結果として当たり前のように毎年、僕の心身の活性も低下する。日常、自分のことを複雑だと誤認している僕はそのメカニズムの単純さに愛おしさを覚える。それが陰鬱な心持ちの中に唯一ほんのりと灯るあかりだ。けれども寒がりの僕にはまだまだ熱が足りないみたい。