赤いくちびるが色褪せる前に

東京コンサート

その熱い血潮の枯れぬ間に。はい、ジャケット買い、決定ですね。曽我部恵一『東京コンサート』が予約開始
曽我部がサニーデイ・サービス東京』10周年を記念して行ったソロ・ライブ。曲順もそのまま、全曲収録だそう。

東京

東京』のジャケットの美しさ、それを CD ショップで初めて目にしたときの異様な多幸感は、本当に忘れられない。僕がこの短い人生の中で体験した、最も美しい東京は、四角いプラスチックの中に今でも閉じ込められている*1。『東京』とは、今は存在しない、そして過去にも決して実在しなかった、美しい幻想たちである。

東京座

やまだないとが『東京座』を出したのも、もう 7 年前。やはり小田島等による同一の写真を装丁に用いていて、本屋で表紙を目にした僕は、当然、すぐにレジへ本を持っていった。大好きなアーティスト同士の幸せな結びつきに胸が躍った。やまだないとの作品には「サマーソルジャー」という、傑作もある。勅使河原宏の灼熱は脈々と受け継がれていく。
そして、今度は曽我部の作品の上でやまだが筆を揮う。後ろの桜がぼんやりと霞んで、サニーデイ・サービスの文字もぼやけているのが、切ない。とても幸せなジャケットなのだけれど、何故だか芥川龍之介の言葉を思い出してしまう。

隅田川はどんより曇つてゐた。彼は走つてゐる小蒸汽の窓から向う島の桜を眺めてゐた。花を盛つた桜は彼の目には一列の襤褸(ぼろ)のやうに憂欝だつた。が、彼はその桜に、――江戸以来の向う島の桜にいつか彼自身を見出してゐた。

幻の、霞む東京を背に、くちびるの少し、色褪せ始めた二人が立っている。

*1:後に限定版紙ジャケットも手に入れた