僕らが旅に出る理由 四つ目

僕が旅に出る理由はだいたい100個くらいあって
四つ目は東京の夏に嫌気がさしてきたこと

統合脳 夏のワークショップ バックパック野宿の旅

いつも僕の旅立ちはせわしない。旅の準備はその日の朝に始めるのが何時からかの悪しき慣習だ。持っていくつもりの衣類は昨夜洗濯したばかりだからまだ生乾きだ。朝日が高さを増していくに従って、布地の上で湿地帯が縮退していく、と同時に飛行機の時間も迫ってくる。そのぎりぎりのトレードオフ・ポイントを見計らい、家を出る。
大学に立ち寄って必要な洗面具*1や論文などをバックパックに追加する。そうこうあたふたしながら北海道の友人への手土産に思案を巡らす。いつ会えるかは分からないから食べ物は避けたい。そもそも東京の土産って何だ?と在京歴五ヶ月弱の僕は途方に暮れる。飛行機の時間が迫り呆然としている僕に井の頭線の揺れが天啓を与える。何時の時代も乗り物の揺れは人々にインスピレーションを授けてきた。渋谷を通り過ぎ空港とは無関係の代官山へ足を向ける。めかし込んだ街で一人、大きなバックパックを抱え、汗をかき散らす僕の姿は異様だ。無事、友人にぴったりな (はずの) 逸品を買い求め、本来なら、猿楽珈琲でゆっくり腰を落ち着けてアイスコーヒーを流し込み涼んでいきたいところだけれども、いよいよ飛行機の時間がのっぴきならないところまで迫っているので、駅前のモトヤコーヒーでアイスカプチーノを。お兄さんとお客さんが僕の旅立ちを祝福してくれる。ここに立ち寄って良かった。誰にも知られずに旅立つことほど寂しいものはないからだ。渋谷にUターン。緑の電車と赤い電車が順調に僕を空港へと運ぶ。離陸30分前に手続きカウンター着。完璧。
今回は(も)遊び行く訳じゃない。思いっきり勉強してやるつもりだ。それでも旅の喜びに心が打ち震えて止まない。いつもと違う場所で目覚め学び食べ眠り、いつもと違う人と出会い話す。それだけで充分旅の要件は充たしているのだ。
ちなみに今回の夏休み課題図書はGyorgy Buzsaki 『Rhythms of the Brain』、ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』、カート・ヴォネガットタイタンの妖女』の三冊。全部読み通せるとは思わないけれど、とにかく旅に持っていき、1ページでも読み進める。旅先での読書がその土地とその本にどれだけ深く印を刻むかを僕は知っている。札幌の街がこれらの本の色に染まり、これらの本が札幌の色に染まることを願う。その他、論文も多数持参。小学生の頃、田舎のお祖母ちゃん家に山ほどの夏休みの宿題を抱えていって、結局何一つ手つかずのまま、帰ってきたことを思い出す。
え、友人への手土産に何を買ったかって?きっとその友人もここを読むだろうから、何を買ったかはナイショなのさ。

*1:半分大学に住んでいるのでその類のものは研究室に置いてある。