分光学者のツールが生体分子中の量子効果を明らかにしつつある

 

A spectroscopist tells how the tools of his trade are revealing quantum effects in biological molecules.
Minhaeng Cho
Nature. 2007 Oct;449(25):951

 
Nature の Journal Club より訳す。

量子力学の入門では、粒子がその運動量に反比例する波長を持ち波のように作用する場合があることを学ぶ。私は、生命が分子レベルにおいてどのように波の特性を利用しているかを明らかにする近年の研究に魅了されている。
動いている生体巨大分子を全体として見た場合、その大きな質量のために「ド・ブロイ」波長は無視してもよいほど小さく、効果は目に見えない。けれども、例えば活性部位 (触媒作用や光吸収のような反応が起こる場所) のような分子内の原子や電子は波のような性質で相互作用をおこすと考えられる。
これらの分子の波動関数が生化学反応の際にどのような役割を持っているかが研究されている。それらが相互作用する場合、どのくらいの距離、そしてどれくらい時間にわたって、波動関数の位相の関係あるいは量子コヒーレンスが持続するのだろうか。
分光学者らは、多次元分光学として知られている技術によって、生体システムにおけるコヒーレンスを立証してきた (Curr. Opin. Struct. Biol. 16, 654–663; 2006)。この技術は数フェムト秒 *1 持続するレーザー・パルスによって非常に短い時間スケールの分子構造の変化を追跡するものである。
今年報告されたさらなる結果は、光合成のシステムにおけるエネルギー伝達が波動的であることを示唆している (Nature 446, 782–786; 2007)。このプロセスにおいては、光励起された電荷の量子コヒーレンスが、量子コンピューティングと類似したメカニズムによって、分子にとって効率的な軌道を捜し出すのを助けている可能性がある。
この観察は、生物システムが効率最適化のために物質の波動性を利用するように進化したのではないか、という興味深い疑問を呼び起こす。

ペンローズの量子脳仮説をまともに扱う脳科学者はそういないのだろうけれど、だからといって脳の中の量子効果をありえないものと無下に切り捨てるするのも勿体無い。もちろんミクロな量子効果を持ち出していきなり一足飛びで意識まで行くのはやはり妙だろう。しかし脳のどの系で量子効果を調べたらよいのか、そしてその機能は何なのか。僕には全く見当が付かないなあ。まいくろちゅーぶる…誰かやってください。

*1:フェムト秒:10^{-15}