第 31 回 日本神経科学大会雑感。

日本神経科学大会で、口演に来てくださったり議論したり飲んだりしてくださったみなさん、ありがとうございました。何人ものかたに身元がバレていたようで、もうブログで名前出してもいいような気がしたです。広いようで狭い業界ですし、どうせ書いている内容ですぐ分かっちゃうんですよね。
色々印象に残ったものはあるんですが、吉田さんと土谷さんが主催された視覚的意識のシンポジウムはやっぱり興奮。裏で開催されていた自己意識のシンポジウムも含めて、ようやく日本の神経科学で正面切って意識を扱えるムードが高まってきたんだなあ、と。土谷さんは錯視や豊富な実験データから注意と意識とが互いに深く関係しながらも異なる機能であることを説得力豊かに主張されていました。もし意識の研究をしていて、「それは意識ではなく、トップダウンの注意ではないか」という突っ込みを受けたら土谷さんのパラダイムを用いれば良い、と。次のAlexander Maier さんのデータは印象的だった。主観的な知覚交代に対応する視覚ニューロンは V1 にはごく僅かしか存在しないにもかかわらず、fMRI で計測するとかなりの voxel が主観的知覚を反映する。この乖離を説明するために LFP の CSD analysis を行うと、表層部はかなり BOLD シグナルと近い振る舞いを見せる一方、第四層は single cell recording と近い。つまり fMRI の BOLD シグナルは、実は高次からの feedback の input を反映している可能性がある。Maier さんはこの結果は直ちに一般化できるものではないと仰っていたけれど、やはり fMRI のデータ解釈は難しいな、という印象を改めて持った。神谷さんはデコーディングの進展状況。リアルタイムのデコードをムービーで見るとやっぱり驚く。もう後は精度を上げていくだけなんだろうか。先日は別のグループから語彙処理のデコーディングの報告もあった。デコーディングに有意に関係する voxel を選択するためにベイズを用いる解析法はポスターで詳しく説明していただき、他の計測手法への応用も出来そうで大変勉強になりました。吉田さんは猿の盲視モデルの総まとめ。猿を手術して訓練してデータにまとめあげるまでの苦労が偲ばれるとともに、データ解析も鮮やか。ともすれば複雑になりがちな内容を、シンプルで説得力ある図で納得させていただきました。だんだんサルの気持ちが分かってくるような気がする。以前ポスターで見たサッケードのパスの解析も面白かったのだけれど、またあれは別に paper になるのでしょうか。吉田さんとは前日の懇親会でお互い 10 年前で止まっている音楽嗜好を嘆きあったのでした。土谷さんには以前植物状態の意識研究に関する記事を mixi でご紹介いただいたことがあり、高校の先輩であることも明らかになったので今回改めてご挨拶させていただきました。司会のお二人さま、お疲れ様でした。モチベーションがとても高まりました。
そのほか、神経局所回路の研究は個人的には今いちばん興味があるところで、うまく自分の研究に組み込みたいと思って一生懸命フォローしている。何というか神経細胞というただの「モノ」と「情報」との境界面が丁度そこにあって、そこをしっかりクリアしないと高次の機能の研究は宙に浮いているような気持ちがするのだ。また数を表象するニューロンモデルに関する森田さんの研究も大変エキサイティングで、理論研究の迫力を感じた。もし自分に数学の能力があったら理論やりたかったなあ、と思った。そして入来先生の講演はかなり熱かった。道具の使用から始まる自己意識、シンボリックな知能への進化。今西進化論に関わる微妙な問題に関しても懇親会で丁寧にご解説いただき、これは論文に当たらねば、と、その日真っ先に佐倉先生との共著論文をダウンロードした次第。
僕の口演はこれまでのまとめ的なもので、相当する論文の revise も終わったので、これで少し落ち着いて次の実験についてじっくり考えられる。来年はコッホさんもいらっしゃるようで、次回はより大きく「意識」をフィーチャーした大会となりそうで、今からわくわくする。出来れば自分も関係する研究を用意したいものだ。三年ぶりに関東以外での開催になるのも楽しみ。