エレファントカシマシ 日比谷野外大音楽堂 2008 06 28


万難を排して参加した結果、排した万難 (論文に学会にその他諸々…) が雪崩のように降りかかってきてしまい、ライブレポをあげるのが遅くなってしまいました。もうあれから一ヶ月か・・・!その上、ライブ後の夜には、新橋でいっぱい引っ掛けたり、友人宅に招待されたり、友人の DJ イベントに出かけたりして一晩で 5 リットル近いビールを流し込み (こんなにビールを飲むのは『風の歌を聴け』の中だけかと思っていた)、しかも爆音で音楽を朝まで聴いていたので、結構記憶が抹消あるいは上書きされているところもあるかと思うけれど、id:hatooon さんにもライブレポのお約束をしたのでがんばって思い出してみました。セットリストはサクさんのところからお借りしてきました。

1. パワー・イン・ザ・ワールド / 2. うつらうつら / 3. 孤独な旅人
4. デーデ / 5. 平成理想主義 / 6. 東京ジェラシィ / 7. 一万回目の旅のはじまり
8. 赤い薔薇 / 9. 勝利を目指すもの / 10. せいので飛び出せ!
11. 今をかきならせ / 12. 真夏の星空は少しブルー / 13. 遁生
14. 月と歩いた / 15. 月の夜 / 16. 珍奇男
17. 友達がいるのさ / 18. さらば青春 /19. ゴクロウサン
20. 真夏の革命 / 21. シグナル / 22. 笑顔の未来へ
23. FLYER / 24. 俺たちの明日
アンコール
25. てって / 26. 今宵の月のように / 27. 武蔵野 / 28. 新曲

オープニングには東芝 EMI 時代の傑作『』のラストを飾る「パワー・イン・ザ・ワールド」を持ってくる。アルバムでは前の弾き語り曲とのギャップで俄然威力を増すけれど、静寂を破るオープニングにもぴったりな曲。そういえば『』のツアーの時もオープニングだった。オレンジの頭にサングラスのギタリストがいて、サポートの人かな、と思って見ていたら石くんでびっくり。ギターソロも妙なアクションでぴょこぴょこしながらがんがん弾きまくる。いやあ、毎回石くんは笑わせてくれるなあ。そしてどんどん演奏のキレが良くなってきている!うれしい。
そして「うつらうつら」!来ました!初めてライブで聴いた。実際僕がファンになってからの 10 数年で片手で数えるほどしかやっていないと思う。これは初期の本当に美しすぎる名曲だ。バブルに沸き立つ当時の浮世を「箱庭の愚か」と歌い、背を向けて、静かな部屋の中からベランダの雀に優しさと戸惑いのこもった眼差しを注ぐ。1st『エレファント カシマシ』で見せた若い怒りは一見穏やかなオルタナティブの提示へと姿を変えているが、美しいメロディに交じる泣くような叫びは RC サクセションの「ヒッピーに捧ぐ」を彷彿させ、後半の演奏の高揚と共に聴くものの感情を激しく揺さぶる。基本ゆったりとした曲だけに、クライマックスでのトミの裏打ちとシンバル使いが圧倒的に表情を豊かにする。なんなんだろう、この曲だけが持つ安寧と絶望の混交。早くも泣く俺。
安心して聴ける「孤独な旅人」、「デーデ」と定番曲を挟み、聴こえてくるは「平成理想主義」のファンキーなリフ!ソリッドなギターとリズム隊とがねっちり絡み合う!ギター音は CD 音源のほうが更に尖っていて格好いいし、ちょっともたっていて、勿体ないと言えば勿体なかったんだけれど、でもこのダイナミックな曲は屋外でこそ!この作品のころは宮本氏がレッチリにハマっていたので、エレカシに似つかわしからぬこんなファンキーなアレンジになったのではないかと思うんだけれど、その上に文学フレーバーをまぶした宮本節が乗ると独特の雰囲気になって面白い。当時のアレンジャーの光太郎さんのギターが凄まじかったんだよなあ。この曲はとにかく音源のアレンジが素晴らしいので、今回の演奏はちょっと物足りなかった。またツインギターで聴きたいな。後半は「いとしのレイラ」の終盤みたいに気持ちのいいスムーズな曲調に変わる。「さらぬだに風を感じ…」と歌詞通りに野外の夕風が気持ちよい。
「東京ジェラシィ」も久しぶり!宮本と石くんのギターバトルが楽しいし、こういうオーセンティックなロックン・ロールはバンドがのびのびして楽しそうでよい。「勝利は俺は全然恐くない」って歌ってるんだけど、これ、実は恐いっていう当時の本心が透けて見えるよなあ。今はほんとに恐れてない感じがする。「赤い薔薇」は昔の武道館ライブとかだと終盤に演奏されてて声がほとんど出てなかったので、前半にやって正解。
「勝利を目指すもの」はルーズなグルーヴの曲で、この辺りが実は演奏が一番難しいのだろうが、東芝期以降はこの種の曲の演奏力がぐっと上がったと思う。こういうノリが出せるバンドは日本では珍しい。
「せいので飛び出せ!」では石くんと宮本がぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏。「せいちゃん作曲の曲は明るい曲が多くて楽しいです。共作といってもほとんど僕が作詞しているんですけど」と宮本のコメント。せいちゃんの曲は単純なロックンロールが多いけれど、ライブ栄えする。「今をかきならせ」では「速さの限界に挑戦します」全員でヘッドバンギングしながら演奏。
だんだん暗くなってきたころに「真夏の星空は少しブルー」。ステージから客席に向けて青い照明がともる。『愛と夢』は歌謡曲風味が若干苦手だったのだけれど、この曲は湿り気は抑え目で大人びた雰囲気が初夏の夕暮れの野外にぴったり。しんみり。そしてこの後なに四畳半火鉢「遁生」で触れ幅の広さを見せ付ける。後半の展開は、最近の安定した演奏で聞くとじんわり来る。CD では気がつかなかったんだけれどドラムが結構いいんだなあ。あの時代に今ぐらいの演奏が出来ていれば、もうちょっと違うミックスの録音になっていたんじゃないか。まあ、CD は CD で、宮本独演といった雰囲気で過激でいいんだけれど。
ここらでMC。宮本先生はギャンブルはやらないらしいけれど、ミスターシービーが好きで一度だけ後楽園で馬券を買ってスッてしまったらしい。それで後楽園から赤羽までふらふら歩いて帰る途中、夜空を見上げると月が右に左についてくる。結構何年も同じ話ばかり繰り返している先生だけれど、このエピソードは恐らく初めて語られたんじゃないかな。先日 id:boy-smith くんに薦められて堀江敏幸いつか王子駅で』を読んだのだけれど、この主人公も競馬というよりも馬そのものが好きで、ふらふら散歩ばかりしているので、なんだか重なって面白かった。
MC の内容から期待されたとおり、「月と歩いた」が始まる。この曲は高校の頃から大好きなんだけれどはライブで聴くのは初めて。静かな弾き語りから始まって、途中で「うさぎのダンス」のパロディ的な賑やかなバンド演奏がはさまれて、再び弾き語りに戻る。この静動静の展開は、「孤独なそぞろ歩き→通り過ぎる車 (≒浮世) の騒々しさ→再び静かなそぞろ歩き」といったストーリーと対応していて、バンド展開部は妙に滑稽なのだけれど、その後の静けさが、面白うてやがて悲しき、悲しうてやがて面白き…といった情感を醸し出すのだ。この辺りは江戸時代の戯作や太宰の作品への愛がはっきりと出ている。今回のライブではバンド展開部における歌唱は、初期のライブ以上に演奏とリズムをずらし、巻き舌も相当のもので、お道化が激しくて素晴らしかった。そして再び弾き語りに戻ってきたところで重ね合わされる蔦谷さんのキーボードのアルペジオ!CD にはない音だけれどとても良い演出だったと思う。孤独を照らす清かな月の光のようだった。彼のこの日のベスト・プレイといっていいんじゃないか。そしてまさかの月メドレーで、間をおかずに「月の夜」!もう頭がぼおっとしてしまった。最近のこの曲は CD 音源の絞り出すような絶叫よりも遥かに澄んだ声。どちらも愛おしい。月をモチーフにしたこの 2 曲はロックにして李白の「人攀明月不可得/月行却與人相隨」の世界 (eys さんの「李白「酒を把って月に問ふ」を参照) を体現しているといってよい。そしてライブでは欠かせない「珍奇男」!最もエレカシが濃密だった 3rd 『浮世の夢』から 4th 『生活』の珠玉の曲群が連続してもう呆然。いつもだったら宮本がアコギからエレキに持ち換える見所を見逃すはずはないのだけれど、今回は気付いたらいつの間にかエレキをかき鳴らしていた。「珍奇男」の壮絶なラストから、ちょっと間をおいて「おい…おい!…」と吐き捨てる宮本。そして「友達がいるのさ」!"東京中の電気を消して夜空を見上てえな"と始まるこの曲、これは野外で聞いてこそ。hatooon さんが一年前ブログを開始される際、この曲に因んで書かれた文が素敵だったのでご紹介 (http://d.hatena.ne.jp/hatooon/20070711/p1)。今 web で見られる映像だと、2004 年の RIJ フェスの演奏が圧巻。

「そう・・・肉体だよ・・・肉体!」って言っている!そして極めつき、「さらば青春」。青緑の美しい照明。伸びのある声で "遠い、遠い、遠い、遠い…日々を僕ら歩いていたけれど" と歌われると、決して平坦ではなかったこれまでのエレファントカシマシの道を思って、そして僭越ながら自分のこれまでの道を重ね合わせて、胸が詰まる。とにかく「月と歩いた」から続くこの流れはもう反則。飲んだビールが全部涙に変わってしまった。泣きすぎてなんだか恥ずかしくなってしまったところで「ゴクロウサン」。やけっぱちなロックンロールに乗っかってうまく照れ隠し。続く「真夏の革命」も 70 年代ロックの乾いた感じが、野音にぴったり。気持ちいいなあ。
そして「シグナル」。薄暗くなってきたこの時間にこの曲もあざとすぎる!この曲はすごく音域が広くて、宮本はライブ後半になってくると (高い音より) 低い音を出すのが苦手になってくる。A メロはひとつ上のオクターブで歌ったり、また戻ったり、ちょっと落ち着かないけれど、とにかく薄暮の中で聞くと、もう、込み上げてたまらん。
「笑顔の未来へ」は CD だと結構軟弱な音作りで、あまり好きではないんだけれど (二番のストリングス入り方は絶妙で素晴らしいと思うけど) ライブだとボトムがしっかりしていいなあ。この曲の間奏のトミのドラムはキース・ムーンみたいにダイナミックで大好き。続く「FLYER」のイントロは全員でヘッドバンギング。ボトムの太さは凶悪なハードロックバンド並み。とにかくトミのドラムがすごい。例えに一貫性がなくて悪いけれど、日本のボンゾだ。僕にはちょっとぬるめだった最新作『STARTING OVER』だけど、最後にこの曲があったことでまだまだ信じられるな、と思ったのだった。宮本の喉も大分かすれてきているけれど野太さを失わない。ほんとに、すげえ声。
本編ラストの「俺たちの明日」は今回の再躍進の機動力となった曲で、やっぱり会場の盛り上がりもひときわ大きい。セールスを狙った応援ソングと言ってしまえばそれまでなのだけれど、宮本は Epic 時代から"俺はお前に負けないがお前も俺に負けるなよ"と歌ってきた男で、それは、第三者的立場から無責任に投じられる言葉というより、常に歌いかける相手を好敵手として認め、愛し、競い、闘い、並び走る姿勢だったのだ。僕は今のエレカシの好況が嬉しいし、こういう筋の通ったポップな曲ならどんどん量産して欲しいと思う。アルバムの中では渋い曲を聞かせてください、
アンコールは名曲「武蔵野」。イントロのドラムが好きなんだけれど、今回は適当にカットされてしまってた。無念。二番あたりで音程が外れまくる…こんな下手なはずないのに…と思ったら、案の定宮本先生泣いていた。前もこんなことあった。この曲が聴く者に過去を喚起する力は強烈なのだけれど、結局、作者が一番引き込まれてしまっているのではないか・・・。それにしてもこの曲の間奏はベースが聴き所だと思うのだけれど、いつも宮本は石くんをフィーチャーするんだよなあ。後ろで控えめに素敵なフレーズ (宮本のアレンジだけれど) を繰り出す成ちゃん、髪は薄くなったけれど、頑張れ。
ラストの新曲は非常にさわやか。「笑顔の未来へ」とかと同じ路線と言えばそうなんだけれど、もう少しエレカシ独特の哀愁もこもっているし、バンドのアレンジもわりと骨太で Manic Street Preachers とか、そんな雰囲気も感じさせる。歌詞に「春夏秋冬」と出てくるのは最近泉谷しげると絡んだ影響だろう。これはプロモーション次第で結構売れそうな気がする。スタジオ録音が軽くなりすぎなければいいと思う。
ああ、もう、とにかく、すごいセットリストだった。これだから野音は外せない。即興の曲で宮本が歌っていたように、何度も何度も練り直して決めた曲順なんだろう。彼らの残してきたオリジナル・アルバムは一枚、一枚、全く色合いが異なるので、その日の気分によって相応しいものを選んで聴くのも楽しいのだけれど、新旧取り混ぜた曲順で聞くと、アルバムの中では分からなかった、新たな、というより、潜在していて気がつかなかった輝きが、引き出されてくるのだった。追い風吹いているし、もっとがんがん進んで欲しいなあ。「オイ、いい風吹いた。行け 行け(平成理想主義)」。ど〜んと行け!