かはらもののこうた

不思議なことだが野宿をしてゐて朝まで際限無く蚊に刺され続けるかといふと、決してそんなことはない。確かに二三カ所は刺されるのだが、それ以上はどうやらその地域に於ける食糧供給の過剰が生じ辺りは吸飽きた蚊ばかりになつてしまうやうなのである。故に蚊音を無闇に気にしても詮無い。ポオタブルプレイヤアにて nujabes でも聞きながら気楽に寝過すが勝ちだ。二三口など宿賃に呉れてやらう。ふむ、安いものだね。やあ、今宵は良いねぐらを見つけたぞ。出雲駅南の小川に架かる橋の下だ。牛蛙が歌つてゐる。からあげくんも発泡酒もある。最高の旅の夜だ。

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本日は稲佐の浜にて禊を行ひし後杵築の宮に参じ奉り本殿を拝す。薄暗りの中に浮び上る彩かなる群雲に古の色彩感覚を目覚ましく覚ゆ。感無量なり。長生きなどすべきものにあらざれど暦の一巡りして後再び出雲を訪ふも悪からずと覚ゆ。自ら沸き出づる思ひに驚きを禁ず能はず。宝物殿、博物館にも参りて大いに学び興ず。夕餉には出雲蕎麦を食す。深き野趣に満ちた舌の楽しみに更なる段を加はざる能はず。出雲市駅側の湯屋にて湯浴みす。切妻屋根、仄暗いラムプ、竹林。いふべきことあらず。日焼けに湯染む。此れ亦楽しからずや。湯浴みし後コンビニエンスストアにて缶ビイルを購ひ興みつつ帰路を計ふ。時刻表リテラシイの低下を大いに嘆く。月満ち満ちて円かなり。夜の杵築野を優しく照す。明日は松江へ。