見たいものだけ見る②

 
見たいものをだけを見る①の続きです。
 

Dissociation of face-selective cortical responses by attention
Furey ML, Tanskanen T, Beauchamp MS, Avikainen S, Uutela K, Hari R, Haxby JV
Proceedings of National Academy of Science of the United States of America (2006) Jan 13; [Epub ahead of print]

 
さて、前回はfMRIのシグナルから、「注意」によって同じ視覚刺激に対しても異なる処理が行われていることを見ました。同じ"二重露光の"絵を見ているときでも「顔」に注意が向いているときには「顔」選択的な活動が、「家」に注意が向いているときには「家」選択的活動が見られたのです。
それでは注意を向けていない映像は、全く脳内で処理されないのでしょうか?注意していないものは目にも入っていない?
 
この答えはfMRIの信号を見ていても判りません。より細かい時間分解能のあるMEGを用いる必要があります。
MEGを用いた先行研究では、顔の視覚刺激を見せてから170ms後付近でM170と呼ばれる顔選択的な反応が得られることが知られています。今回も「顔」の写真*1に対してこの活動が見られました。「家」と「顔」の違いは刺激提示から、およそ110ms後から違いを示し、170msほどで、その活動の差は最大になります。
ではM170に対する「注意」の効果はどうでしょう。興味深いことに、"二重露光の"刺激に対しては「顔」に注意を向けていようと「家」に注意を向けていようとM170が観察されたのです。また、「顔」に注意を向けて二重露光の写真を見る場合も、刺激提示後120msほどで、「家」の写真*2を見たのと同じような活動が見られます。
つまり注意を何に向けるかに関わらず、脳は二重露光の刺激に対し、「顔」および「家」それぞれに特異的な視覚処理を行うということです。
 
ではfMRIのシグナルで検出されたような、注意の向いたカテゴリーに対して選択的な脳活動はどの時点から行われるのでしょうか?どうやらそれはもっと遅い段階で生まれるもののようです。「顔」の写真と「家」の写真に対する活動の差が刺激提示後110msごろから見られるのに対して、二重露光の写真をどちらに注意を向けて見るかの違いは200ms後ほどにならなければ見られません。
 
これらの結果から示唆されるのは、比較的初期の段階では、二重露光の写真に対して顔および家それぞれに特異的な視覚処理を行い、その後の段階で、処理された二つの視覚表象のどちらかにスポットライト(=注意によるセレクション)を当てて一つの表象を選び出す、といった脳内処理です。著者らは、初期のフィードフォワードの顔選択的な処理(M170)は注意によって影響を受けず、フィードバック投射によって注意の影響を受けるもっと後期の成分がfMRIに反映されると論じています。
 
これは空間注意の影響がフィードバックによって遅いフェイズにもたらされることを示したMartinezらの1999年のNature Neuroscience論文とよく似たパラダイム、結論ですね。

Involvement of striate and extrastriate visual cortical areas in spatial attention
Martinez A, Anllo-Vento L, Sereno MI, Frank LR, Buxton RB, Dubowitz DJ, Wong EC, Hinrichs H, Heinze HJ, Hillyard SA.
Nat Neuroscience (1999) Apr;2(4):364-9

この先、このMartinez論文とも絡めて議論を進めていきます。
 
見たいものをだけを見る③に続く

*1:バックには薄められた「家」の写真が隠れています。

*2:もちろんバックには薄められた「顔」の写真が隠れています。